2011年6月4日土曜日

福島を訪れた雑感


昨日、雑誌の取材のため福島市を訪れた。

幼い子どもを持つママや、幼稚園・学校の先生、そして「放射能から子ども守る福島ネットワーク」の中手さんともお会いし、直接お話を聞くことができた。

その詳細は、記事でご紹介するとして、いくつか雑感を記しておきたいと思う。


■美しくて危険な公園、芝生の放射線値は2.2msv/h

 私が福島を訪れるのは、昨日が生まれて初めてだった。土地勘もない。原発の状況も予断を許さない。もちろん放射線値は高い。福島に住み続けている人に申し訳ないと思いながらも、正直なところ、取材に行く前は少しナーバスになっていた。

放射線計測器は、タイプの違うものをふたつ持ち、帽子にマスク、長袖のシャツに長ズボンで完全防備した。福島の駅に降り立ったとき、計測器は0.56μsv/hを示した。始めて見る高い値にドキドキする。

 しかし、一歩町中に出ると拍子抜けした。この日の福島市は夏のような暑さだったこともあり、若い女性も肌を露出して歩いている。マスク率も低い。

駅前で福島市の地図を眺めていると、警備員さんが「探している場所はみつかった?」と笑顔で声をかけてくれた。目的地である“新浜公園”の場所を訪ねてみると、歩いて10分ほどだという。

 街の人は親切で、空は晴れていて、とても好感の持てる街――。それが福島の印象だった。

 「なんだ大丈夫じゃないか…」

気持ちを緩めそうになって、ふと計測器を見た。値は0.8μsv/hを示していた。放射線管理区域よりも高い。あぁ、やっぱり大丈夫じゃない。そう思い直して街を歩き出す。

とにかく暑い。マスクをしていると息苦しくなって、それこそ鼻血が出てしまいそうだ。今夏は長袖で登校する、という福島の子どもらは、どれほど暑いだろうか。新浜公園に着くまでに、すっかり汗ばんでいた。

新浜公園は広々として、芝生が青く、子どもたちの遊具がいくつか設置されている。思わず寝転びたくなどほど、芝生はきれいに整備されていた。しかし、人影はない。なぜならこの公園は、芝生の放射線量が3.8μsv/hを超え、しばらくの間、屋外活動に制限が課されていたからだ。現在は、解除されているが、子どもたちの姿は戻っていない。

ひとりで園内を清掃していた管理人の方に声をかけると、待ってましたとばかりに話してくれた。

「ここはね、近くに学校とか幼稚園があるから、いつもたくさんの子どもたちが遊びに来ていたんですよ。噴水もあるから、夏は幼稚園の子どもたちが水遊びしたりしてね。でも、震災以降は全く寄りつかなくなりました。残念ですね。ここまで芝の手入れをするのは大変だったんですよ」

 簡易型の放射線計測器で芝の上を計ると、2.2μsv/ hを示した。美しくて危険な公園。管理人さんは、それでも黙々と園内の手入れを続けていた。



■周りから声をあげてほしい

 その後、市内にある「青空幼稚園たけのこ」におじゃまして、先生を含め、3人のママにお話を聞くことができた。 

その内容は雑誌で発表したいと思うが、ひとつだけ、どうしもここで伝えておきたいことがある。それは、あるママのこんな声だ。

「他県の方から見たら、こんなに放射線値が高い地域にいつまでも住んでいるなんて、考えられないでしょう。 なぜ早く出ないのか、そう疑問に感じている人が多いのは知っています。でも、福島の中にいたら分からなくなってしまうんです。みんな全く何事もなかったかのように生活しているから――。原発が爆発した直後は、みんなマスクも付けていたし、もっと警戒していたんですよ。でも、県の放射線リスクアドバーザーである山下先生が“健康には全く問題ありません”と言った。ラジオや新聞、そして一日3回くらい回ってくる回覧板で何度も山下さんの発言を刷り込まれました。私だって、最初はそれを信じていたんです。あとから自分で調べて“おかしい”と気づいたけど、今でも信じていたい人がたくさんいます。なぜなら今の生活を失いたくないからです。だから、どうか県外の方にもっと声をあげてもらいたい。あんたたち! そんなところに暮らしていたらダメだよって、もっと言ってほしいんです。そうすれば、目をさましてくれる人も増えるはずだから」


放射能は目に見えない。だから今の平和がいつまでも続くと信じたい気持ちは理解できる。

私ですら、福島を訪れてごく普通に暮らしている人々を目の当たりにして、気を緩めそうになった。しかし、日常的に1μsv/hを超えるような環境は、どう考えても普通ではないのだ。

 

 この日、たけのこ幼稚園では、車で1時間半ほど離れた山形県の米沢まで園児を連れて遊びに行っていたのだという。「福島ではもう外遊びはできませんからね。だからたまには、思いっきり子どもを遊ばせてやりたいと思って」と話すのは、園長の辺見先生。

 子どもたちは、米沢に行っても口を手で覆おうとするらしい。先生が、「ここは安全だから、思いっきり空気を吸っても大丈夫よ」というと、おそるおそる手を外すという。

 私たちが初めて経験する低線量被爆――。なにが正しいのか、誰も正解は持っていない。

でも、間違いなく言えるのは、やはり子どもが口を覆わなくてはならない状況はおかしいってこと。それを訴え続けることは、必要ってことだけだ。

 

1 件のコメント:

  1. 私の父親が福島生まれなので、他人事ではない。
    今、私に福島県相馬地域の皆さんに何ができるかを四六時中考えています。いろいろ考えた結果、今は「特に放射能に汚染されている地域の方々を含め「海外技術研修生プロジェクト」を日本とブラジル両政府の支援を受けて南米・ブラジルに働きにいくこと(案)。研修条件は「個々の技術を生かした仕事を3年~6年間行うこと」。そして原発問題が解決した暁には帰国するという制度です。

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